市民病院6階談話室はネバーランドのようです
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99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/27(火) 23:50:28.62 ID:u6udKn7x0
投下しますよ。25レスくらい使いますよ。
お題『秋の夜長』
  『台風一過』
  『ピーターパンシンドローム』
みなさまの睡眠までの時間つぶしになればと思います。
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/27(火) 23:51:40.74 ID:u6udKn7x0
 
“ Don't you understand Tink? 
    You mean more to me than anything in this whole world.”
  「ティンク。わかってるのか? 世界で一番大切なのはおまえなんだぞ。」
        ディズニー映画 "Peter Pan" 「ピーター・パン」より

01.大人になりたくないウェンディ
  _,
ミ,,゚Д゚彡「悪趣味な話だな、このクソったれめ」

 吐き捨てた言葉は耳汚しもいい所だった。思わず舌打ちが漏れる。
一人がけの、黒革張りのカウチに腰掛けながら、俺はバスンと大袈裟な音を立てて『その本』を閉じる。
 ――――あれから15年たって、やっと開くことの出来るようになった一冊の児童書。
 硬いハードカバーの質感の向こうに、モクモクとあがる入道雲と、
宇宙まで突き抜けるような眩い青空を飛ぶ、何人もの子どもたちの絵が書かれている。

 表紙に踊る文字は――――「ピーター・パン」。
 「あいつ」が俺に託した、二つのうちの一つ。


  市民病院6階談話室はネバーランドのようです


104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/27(火) 23:53:18.97 ID:u6udKn7x0
 「ピーター・パン」は、イギリスの劇作家であるジェイムズ・マシュウ・バリーの作品で、
大人になれない男の子のピーター・パン、大人になりたくない女の子のウェンディ、
そしてその兄弟たちがどこかにあるという不思議な島、「ネバーランド」での冒険を描いたファンタジー作品だ。
 ディズニーが映画化したことでも有名で、大昔、世界名作劇場でもアニメ放映していた。
緑色の妙なチョッキを着た半パン少年と言えば? と質問されれば、
恐らく万人が「ピーター・パン」と答えるだろう。
 知名度はそこらの童話より高いかも知れない。

ミ,,-Д-彡「――――……」

 ゆっくりと瞼を閉じて、背もたれに体重を移していくと、
大枚を叩いて買ったカウチは軋むことなく、ゆったり俺の上半身を包み込んでくれる。
 世界中で知られているこの作品を読んで、これほどの悪態を辛辣に吐いたのはきっと俺だけ。

 ――それは、『彼』の奔放な言動が、あまりにも『あいつ』に似ていたからに他ならない。

 あの特別な日々を追体験させられているかのような感覚。
自分にとっての聖地が、他人に、無遠慮に覗き見されているようでとにかく気分が悪かった。

  『ねぇ、ギコ。私、ピーター・パンになるんだ。』

 今にも泣き出しそうな声が、泣き顔の上に無理矢理作った不細工な笑顔が、ふと脳裏を過ぎる。
 俺はより一層強く目を閉じた。
瞼の裏を掠った情景を、眼球へ焼き付けるように。決して忘れないように。
俺にとって何物にも替えがたい、中学一年生の秋の日々。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/27(火) 23:55:31.57 ID:u6udKn7x0
 『あいつ』は――俺にとってのピーター・パン。

 まるで――そうだ。

 暗闇の中、執拗に窓を叩く雨交じりの風みたいな奴だった。


02.ピーターパンとウェンディーの日常

「おーい、そっこの中一のくせに人相悪い三白眼ー!」
(,,゚Д゚)「……げ」

 約20m程後方から、心底嬉しそうな俺を呼ぶ声が聞こえて、踏み潰されたカエルみたいな声が出た。
腹に力を入れ、ぐっと踏ん張る体勢をとると、待ってましたと言わんばかりに背中へタックルが入る。
――いや、本人としては『ちょっと勢いをつけて抱きついた』くらいの心持ちだろうが、
『高速正面衝突-我が後のみに道はある-』なんて二つ名(命名・俺)を欲しいままにするこいつの
『ちょっと勢いをつけて抱きついた』威力は推して知るべし。

「ふへっ。えへへへ。兄ちゃん兄ちゃんお兄ちゃん一週間ぶりだな、七日ぶりだなっ!」

 『そいつ』は妙な笑い声をあげながら、ちみっこい体全体使ってグリグリと俺の背中に全身を擦り付けてくる。
細い腕が俺の首へ伸びて、くるりと巻き付かれた。
 受け止める場所こそ胸か背中か、その時々で変わるものの、こいつと出逢ってからの3ヶ月、この猪突猛進な親愛表現はずっと変わらない。
何の危機感や遠慮無く預けられる全体重は羽みたいに軽くて、小さくて。
どこにこんな爆発的なエネルギーが詰まってるのか毎度毎度不思議に思う。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/27(火) 23:56:59.95 ID:u6udKn7x0
「そうして、顔は渋いしかめっ面になりながらも、俺の口元はつい緩んで――」
 _,
(,,゚Д゚)「いや、してねぇから。見間違いだから超見間違えだから。
     っていうか人のモノローグ勝手につけくわえないでくんないっすかねゴルァ」

 背中で、ニフニフとまた妙な笑い声が聞こえてきた。
俺は言われた通りだった口元を見つからないよう引き締めて、ぶっきらぼうな声色を作って言う。
 そして、

(#,,゚Д゚)「――せぇッ!」
「ぬほっ!?」

 そのまま、首に絡み付いていた腕を引き剥がして、背負い投げを行った。
何事かと周りの空気が一瞬どよめくが、投げられた相手がその勢いを利用し、
綺麗に弧を描きながら体操選手ばりに着地したのを見て、それらに歓声の色が混ざった。拍手まで聞こえてくる。

o○+ ヽ(*゚∀゚)/ o+o * 

 ドヤ顔やめろ。

 ――まあ、ギャラリーの皆さんにとって、ここはそういう刺激の少ないところでしょうからね。
ちょっとしたエンターテイメンツショーですよ。
 ……それはさておき。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/27(火) 23:57:54.09 ID:u6udKn7x0
(;,,゚Д゚)「相変わらず軟体動物みてぇな動きだな、おい」
(*゚∀゚)「ふふふ、もっと褒めていいぞ。っていうか褒めろ褒めろあと撫でろ」

 うりうりと頭を突き出してくるのでチョップする。

(,,゚Д゚)「いや、真面目な話、そこまで運動神経が良けりゃ将来、体操選手とかになれんじゃねぇの」

 そのままチョップを続けながら、俺は感心しきりに言葉を告げていた。
 _,
(*゚∀゚)「あー……いや、それ、は……ちょっと、厳しいな」

 調子付くだろう、という予想に反して、
目の前のチビはタハハ、と笑いながら、自分のトレードマークになっている赤色のパーカーの裾をぎゅうと握る。
 首をかしげると、それよりもなりたいものがあるしね、と笑顔のまま返される。

(,,゚Д゚)「へぇ。そりゃ興味深いな。そりゃなん――
「ぎょわぁぁぁあああ!! あーッ、もう! 毎回毎回騒がしい!!」

 最後の「だ」は甲高い女の叫び声にかき消された。
今までで一番騒がしいのは確実にさっきの声なのだが、それは言わぬが仏だろう。
 遅れて、ドスドスという足音が聞こえてくる。
そちらを見れば、般若の形相をした女が大股でこっちに近づいて来ていた。
背中に背負ったオーラで悪鬼が見える。どこぞのグラップラーかよ。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/27(火) 23:59:13.72 ID:u6udKn7x0
(*゚∀゚)「ほぁー」

 いつの間にか俺を盾にするように背中へ回り、間抜けな声を上げるこの犬っコロを背負って、
俺も対抗すべきだろうか。……いや、負けるよなぁ。
 覚悟を決めて背筋を伸ばすと、既に息のかかるくらい近くに、額に青筋おっ立てた金髪カールのお姉さんがいた。

ξ#゚⊿゚)ξ「場所わきまえろこのクソ餓鬼ども!」

 ビシッ、とつき立てられた人差し指。鬼軍曹さながらの気迫のまま、

ξ#゚⊿゚)ξm9「ここ、病院だからね!!!!???」

 怒号が飛び、周りの景色が広がる。

 鼻の奥に刺さる消毒液の匂い。
カラカラとローラーが回る音がして、そちらを向けば頬のこけた爺ちゃんが点滴持ってうろついていた。
 ナースステーションの横にある8畳ほどの広さの談話室では、
右腕を骨折した大学生と肝臓いわしたおっさんが将棋を打っている。

 ……そう、さっきまで俺たちが馬鹿騒ぎしていたのは、市民病院6階のエレベーターホール。
人の往来も少なからずある公共の場だ。
 命のやり取りが、コンマ一秒単位で行われている白い巨塔。
まあ、老い先短い人間の巣窟――棺桶病棟なんて密かに揶揄される6階の時間は、
そこに住まう人々の願いからか、老朽化で寂れた内装のせいか、どことなく停留している印象を受けるのだけれど――
 それはさておき。
 
(*゚∀゚)「……あの剣幕なら死人も生き返りそー。」

 背中のコバンザメに心の底から同意しとこう。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:01:41.69 ID:u6udKn7x0
 
(*゚∀゚)+「むむむむ。あかがわじろうが充実してますなー。
      ……うわ、ここにも人間革命が置いてある」

 独り言にしては大きな声。鈴の鳴るような、聞き心地の良いメゾソプラノだった。
 ソイツは、くりくりとした大きな瞳をじぃっと本棚へ向けて、蔵書の背表紙を指先でなぞっていた。
セミロングのやけに艶々した黒髪が印象的な、小柄で“可愛らしいお嬢さん”。
 外見がそんな風に整っていたので、俺は見事に騙されたのだ。あわよくばお近づきにと思った。
勿論、爺さんにかまけていた家族から離れて、手持ち無沙汰だったというものある。

(,,゚Д゚)「基本的につまんねぇ選書だろ。何悩んでんだか」 
Σ(*゚∀゚)「っ!?」

 後ろから、ひょいと本棚を覗くようにして俺は声をかける。
小さな背中が大袈裟に揺れて、驚きからか微かに涙が浮かぶ目尻と視線が逢い、

(*゚∀゚)「……なんだ、びっくりした。お迎えがきたかと思った」
(;,,゚Д゚)「お迎えてなんだゴラァ」

 のたまうソイツに誰待たせてんだと苦笑いすると、

(*゚∀゚)「天国」

 相手は一拍置いてニパリと笑ったのだった。


114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:03:12.82 ID:u6udKn7x0
 ……その笑顔は、俺が今まで見てきた沢山の笑顔が霞んでしまうほど
喜びに溢れていて、親愛の情に富んでいて、陳腐な表現になるが――
まさに花も綻ぶような、鼓動も忘れて見惚れてしまうくらい、綺麗な笑みだった。

(,,゚Д゚)「――――っ!?」

 今度は俺の番とばかりに、面を食らってしまった。
一撃必殺のノックアウト。それは卑怯だろ、と、筋違いな罵詈が反射的に喉を突付いていた。
 その言いがかりをなんとか押し殺せたのは、

(*゚∀゚)「え? なんだなんだなんだ? フランクに話しかけてくれたのは君? ねぇねぇ、君?」

 ソイツが喜色満面の笑みのまま、無造作に地べたへ置いていた本をとり、頭二つ分高い俺を見上げたから。
鼻の奥をツンと刺す、オキシドールの香りがふわりと漂って


(*゚∀゚)「ねぇ、読んでよ。」


 差し出された一冊の本。
ハードカバーでそこそこ分厚いそれ。表題を見て、小さい頃一度だけ読んだことを思い出した。
 ジェイムズ・マシュウ・バリーの『ピーター・パン』。

 それが、俺たちの馴れ初めだった。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:00:04.84 ID:zykIwHaG0
 
 …………さて。

 (*゚∀゚) ←
 あいつ、チビ、お前、軟体動物、犬っコロ。
色々な呼び名を使っているけれど、俺はあいつの名前すら知らない。
 知っていることとと言えば、基本的に騒がしいこと、読書が好きなこと、
6階の東病棟に、心配症の母がいるらしいこと
(談話室の近くで馬鹿騒ぎしていると、例の怖い看護婦の津田さんが毎回
「お母さんが心配してるわよ!」とアイツを連れ戻すためだ)。それくらいだった。
 毎度毎度、あんなにじゃれ合っているにも関わらず、肝心なことは聞けずにいる。

 理由としては――機を逸した。この一言につきるだろうか。

 気づいたら、今みたいな状態になっていたのだ。
いまさら「そういえばお名前なんでしたっけ」なんて聞けるはずもなし。

(,,゚Д゚)「…………」

 じゃあ――出逢いはなんだったか。

(,,゚Д゚)「あー……」

 そうだ。肝硬変で長期入院してる爺ちゃんの見舞い帰り、
談話室の本棚と真剣に睨めっこしてる、同年代の女子を見掛けたのが全ての始まりだった。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:04:29.65 ID:zykIwHaG0
03.ここが二人のネバーランド

 それからというもの、俺たちは談話室で何かと会話をするようになった。
それは無難な天気の話題であったり、 昨日見たテレビ番組の話であったり、面白い本や漫画の話だったりした。

(,,゚Д゚)「そういやお前、何歳なんだ?」
(*゚∀゚)「12歳だよ。成熟したロリータだなぁ!」
(,,゚Д゚)「ロリは未熟だからロリっていうんだぞぉ……?」
(*゚∀゚)「で、で、で、そっちは?」
(,,゚Д゚)「ん。13。中一。つー訳で先輩ですー。ほら敬え崇め奉れチビジャリ」
(*゚∀゚)「先輩、売店でコッペパン買って来てー」
(#,,゚Д゚)「敬えつってんだろうがゴルァ」
(*>∀<)「きゃー」

 俺たちはそうやって、顔をあわせる度に他愛のないコミュニケーションを積み重ねていった。
毎週日曜日に両親と行く爺ちゃんの見舞いは、俺とアイツが逢う日でもあった。

(,,゚Д゚)「お前さぁ、よく本読んでるよな」
(*゚∀゚)つ□「おう! 読書は好きだな! ページを開けば、なんにでもなれるしどこにでもいける!」
(,,゚Д゚)「そーかそーか。で、それはなんの本だ」
(*゚∀゚)つ□「ちじんのあいだって! 談話室にあった!」


(,,゚Д゚)「はいボッシュートー」
Σ(*゚∀゚)つ「わー! いまイイトコロなんだぞ!?」

 いつしか季節は、俺たちが出逢った夏から秋に変わろうとしていた。
アイツは俺の一挙手一投によく泣いて、よく驚いて、その倍くらいよく笑った。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:05:42.32 ID:zykIwHaG0
(*゚∀゚)「んー……! 風が気持ちいいなぁ!」
(,,゚Д゚)「ここの病院、屋上開放してんだな」

(*゚∀゚)「気分転換がこーゆー場所でくらいしか出来ないからねー」
(,,゚Д゚)「なるほど」

(*゚∀゚)「んー……。……へへへっ」
(,,゚Д゚)「やめ、っおい! だだだ抱きつくなゴルァ!」

(*゚∀゚)「ふふふ、照れてるのん? 12歳の女の子に抱きつかれて当ててんのよされて照れてんのん?」
(,,゚Д゚)「いや、何か、アバラみたいな硬い奴が当たって普通に痛、」
Σ(#*゚∀゚)「!!」
Σ(;;,,゚Д゚)「いてー!!! 締め上げるなクソ餓鬼ーー!!」

(#*゚∀゚)「“ぐらまー”になりたい!」
(;;,,゚Д゚)「願望!!?」

 秋の風の心地よさも、夕焼けに映えるいわし雲の美しさも、
思い返せば、全てあいつが教えてくれたことだった。
 だから、俺が病院へ赴く理由の比重が、「爺ちゃんの見舞い」から
「アイツに逢うこと」に移り変わっていったのは、至極自然なことだったと思う。


結局、俺は初対面のあの笑顔に参ってしまっていたのだ。




118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:06:39.82 ID:zykIwHaG0
 

 じゃれ合いながら馬鹿騒ぎする俺たちの間でも、タブーというか、不可触なラインはあった。


(,,゚Д゚)「そういやさ、一番好きな本って何なんだ?」
(*゚∀゚)「んー……そういわれると迷うなぁ……何せ一番がいっぱいあるから……。
     あ、でも、心に残ってるっていうなら、ピーターパンかな!!」

(,,゚Д゚)「――ああ、最初に逢った時読まされたアレか」
(*゚∀゚)「いい本だったっしょー?」

(,,゚Д゚)「……原作よりディズニーのが好きだな。その本じゃ、ピーターパンはずっと子どもだろ?
     なんつーか、進歩がなくて嫌いなんだ。
     それなら大人になることを選ぶあっちの方がまだ救いがねぇか?」

 俺がそこへ一歩踏み込もうとすると、アイツはどこか諦めたような笑顔だったり、
ここではないどこか遠くを見ているような眼差しで俺を責めた。

(*゚∀゚)「……ううん、大人にならないんじゃなくて、
    “大人になれないんだよ”、ピーターパンはさ――」

 この時のように。

(,,゚Д゚)「っ……!?」


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:08:39.10 ID:zykIwHaG0
 
 ――――俺たちのタブーは“将来の話”だった。
「未来」、と言い換えていいかもしれない。

 とにかく、その一片でも口の端に登ると、アイツはあからさまにはぐらかそうとしたり、言いよどんだりした。
そんな時ほど、俺の背筋を何か得体の知れない、恐ろしくて薄ら寒い予感が這い登った。

 ――――ピーター・パンを一度でも読んだことがある奴は知っているだろうが、
夢の島「ネバーランド」は決して楽園ではない。

 子どもたちを殺そうと海から海賊がやってくるし、
それを殺そうとしているインディアンたちもいる、弱肉強食の理がまかり通っている場所だ。
 俺の予感とアイツの言動は、俺たちにとっての『ネバーランド』も、そう言う場所なのだと言いたげだった。

 これは危うい均衡を保った薄氷のような時間で、
踏み出せば最後、俺たちの関係は終わってしまうと警告しているようなそれ。

 気に入らなく想う気持ちは、俺がアイツを想う気持ちと同じくらいのスピードで大きくなって行った。
 ……そうだ。そうさ。だから俺は、踏み出したんだ。
先に進みたくて、先に進んでも何一つ変わらないって証明したくて。


    ――――――その選択への後悔は、未だ尽きない。



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:10:13.22 ID:zykIwHaG0
04.時計塔の針へ、ウェンディの指先が触れる

 9月の第二土曜日、俺は上昇するエレベーターに乗りながら、二枚のチケットを握り締めていた。
最近、郊外に出来たおとぎ話をモチーフにしたテーマパーク『ネバーランド』の入園券。
 今朝方、新聞配りの兄ちゃんが継続契約のお礼にと家に持ってきたもので、
姉との盛大な奪い合いの末に獲得したものだった。

 『ネバーランド』。

 その名前を聞いた時、なんとしても手に入れなければならないと感じた。
使命感じみたものが俺を突き動かして、気がつけば普段は滅法頭の上がらない姉に楯突いていた。
正気の沙汰ではなかったと思う。しかし後悔はない。
 今、あいつに逢うついでに爺ちゃんの見舞いをするためではなく、純粋にあいつに逢う為病院に来ていることに対してもだ。

 チン、と軽い機械音が鳴って、扉が開いた。

 あいつの姿は――予想通り、というべきか。談話室にあった。
トレードマークの赤いパーカー。フードを目深に被って、あの時と同じように本棚と向かい合っていた。


(,,゚Д゚)「……よぉ」


 俺が先手をとったのは、初対面の時を覗けばこれが初めてだったかも知れない。
俺の声に反応して、小さな背中ごとアイツの肩が大きく振れる。
それからややあり、ギギギ、と錆付いたブリキ人形みたいな緩慢な動きでこちらへ振り向いた。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:14:32.92 ID:zykIwHaG0
(;* ∀ )「えっ……嘘嘘嘘、なんっで、なんでいるんだよなんくぁwせdrftgyふじこlp !!!」
Σ(,,゚Д゚)つ「あっ、こら、おい、逃げるなゴルァ!」
つ;* ∀ )「ぎゃーーーーー!!!!」

 アイツがズバッ、と立ち上がり、叫びながら俺の横をすり抜けようとしたので、
パーカーごと頭をむんずと掴む。手に分厚い布の触感だけが伝わってきた。
 ――そして、今日始めて向かい合って、それから気づいた。
フードのせいで鼻先から下しか見えないが、アイツの顔色が酷く悪い。

(,,゚Д゚)「え……おい、どうしたゴルァ。血色悪くねぇか?」
(* ∀ )「ファンデ、せめてファンデーションだけでもつけさせてくらはい……!」

 うわごとのように繰り返すアイツの焦りようったらなかった。
どういうこった、と聞くよりも先に、

(* ∀ )「っていうかアンちゃん来るの日曜日でしょ!!? 今日は土曜日なんだけどなー!!?」

 きゃんきゃん喚かれた。
 この噛み付き方はどうしたことだろう。いつものアイツらしくない。
先のことと相まって不気味な予感がしてきたが、それよりも果たさなければならない大義がある。
 俺はポケットに突っ込んでいたチケットを取り出して、アイツに突きつける。

(,,゚Д゚)「うっせぇ。今日は、ほら、その。あれだゴルァ」

 ボリ、と頭を掻いて、言う。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:15:37.16 ID:zykIwHaG0
 
(,,゚Д゚)「デートの誘いだゴルァ」

(* ∀ )「――――っ~~!!?」

 誘われた相手は、解りやすく息を飲んだ。俯いているため、表情は見えない。

(,,゚Д゚)「最近出来た“ネバーランド”のチケット。偶然手に入ってな」

 嘘である。

(,,゚Д゚)「それで、まあ、友達は全員回ったんだがよ。全員に断られてな」

 もちろん嘘である。

(,,゚Д゚)「いかねーか。明日。お前、どうせ暇だろ」

 嘘に嘘を重ねて、最後は真摯な気持ちで言う。
俺の言葉が終わると、アイツは伏せていた顔を上げて俺を見据えた。
 怖気がするほど愚直な視線だった。

(,,゚Д゚)「……っ」

 思わず息を呑んだのは、俺があからさまに、二人のタブーに踏み込んだのにもかかわらず、
アイツが逃げようとせず、こちらを真っ直ぐ見ていることに気づいたからだった。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:17:41.20 ID:zykIwHaG0
 
(* ∀ )「な」

 静かな声。アイツの細い腕が、パーカーのフードへと伸びて

(*゚∀゚)「私のネバーランドは、ここなんだよ」

それを払いのけた。

(;;,,゚Д゚)「おまえ……それ……」

 ガツンと後頭部に一発、飛び切り良いのが入ったような衝撃が走る。
真っ先に目が行ったのはアイツの頭だ。

 そこに、見慣れた――あの妙に艶々した黒髪がなかった。

 少年のような丸坊主。
恥ずかしげに鼻っ面を掻く仕草と相まって、雰囲気がいつもより随分幼く見える。

(*゚∀゚)「はは、最近のウィッグって凄いだろ。全然わかんなかったよな?」
(;,, Д )「――――――……あ……あ……」

 意味を持たない言葉が口から漏れ出ていく。
フラッシュバックしたのは薄ら寒いあの予感。それがこの光景を経て、確信へと変わった。
 考えもしなかった最悪な結末。
嗚呼、俺の狭い常識の中で、副作用で髪が抜けていく病気なんて一つしかない。
でも、それは。美談や悲劇でよく語られるその病魔は、俺や、アイツにはちっとも似合わないもののはずなのに。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:19:36.18 ID:zykIwHaG0
(;,, Д )「ここには、お前の、カーちゃんが入院してるんじゃねぇのか……?」
(*゚∀゚)「お母さんはお見舞いに来てくれてるだけだぞ?」

 ケロリと。何事もないようにアイツは言った。
今にも泣き出しそうな瞳の奥にある光だけが、俺の軽薄を詰っていた。
何故踏み込んだのかと。甘く停留する時間に何故もう少しだけでも浸からせてくれなかったのかと。
 そして、アイツは恥ずかしげにはにかんでから、フードをもう一度深く被り直して


(*゚∀゚)「嬉しかった。『患者』でも『重病の女の子』でもなく、
 ただ『普通』に接してくれたの、はじめてだったから」


 顔を上げ、今にも泣き出しそうな声で、泣き顔の上に無理矢理作った不細工な笑顔で、


(*゚∀゚)「ごめんな?」


 とだけ伝えてきた。


 ――――それが、俺の見たアイツの最後の姿だ。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:22:56.93 ID:zykIwHaG0
05.子どもであれる時間は一夜

 それ以来、アイツがあの談話室に顔を見せることは終ぞ無かった。
虱潰しに全ての病室をあたったこともあるが、それらしい姿の影を踏むことすら叶わなかった。
転院か退院かの可能性にも掛けて見たが、名前という手がかりを持っていなかったのが痛かったのだろう。
看護士や患者に聞いてみても、みな一様に首を傾げるばかりだった。
 あの馬鹿騒がしい姿は、俺だけに見せていたものだったかもしれない。

 アイツが俺に名前を教えなかった理由を類推した時には、胸が押しつぶされたように痛んだ。

 そして、10月の第三日曜日。
爺ちゃんの見舞いの帰り、俺はとある人物から一通の手紙を受け取った。

ξ ゚⊿゚)ξ「よ」
(,,゚Д゚)「あんた……」

 看護士らしからぬ、キンキンに染めた金髪に、ほそおもての険のある眼光。
それでも医療従事者かと疑いたくなる粗暴な言動で持って、俺たちを引き剥がしていた人。
ネバーランドのフック船長が脳裏を過ぎる。冗談にしては笑えない。

ξ ゚⊿゚)ξ「あの子から預かってるものがあるわ」
(,,゚Д゚)「……!」

 看護士の津田さんはそう言って、薄紅色した看護服のポケットから一枚の封筒を取り出した。
ここに来て、俺は自分の迂闊さを呪った。そうだ。津田さんだけが俺とアイツの接点だった。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:25:14.83 ID:zykIwHaG0
 引っ手繰るようにして受け取り、俺は目を見開いてそれを見る。
 少女誌の付録についているようなキャラクターもののの横長の封筒には、キャラクターシールがベタベタに貼られていた。
きっとレイアウトを精一杯考えて、一枚一枚丁寧に貼っていったのだろう。だがセンスは最悪だった。

 俺は震える手つきで封をあけ、中を見る。手紙は二枚あった。
デフォルメされた猫が枠に沿って寝そべったり座ったりしているファンシーな便箋。アイツらしくない。
自嘲混じりに笑い、俺はそこへ書かれた、予想よりもずっと整っていた文字を追いはじめる。

『ギコへ。

 名前、津出さんにズルして聞いちゃったこと、あやまります。
 ふこーへいだよね。ごめんなさい。
でも、この他にも、私、ギコに謝らなくちゃいけないこと沢山あるね。

 まず、こんな形でしか私の病気のこと、伝えられなかった弱さ。ごめんなさい。
私のワガママで、津出さんにも悪いことしちゃった、って思う。ごめん、津出さん。

 それから、逢えて嬉しいからって、毎回タックルして、ごめんなさい。
津出さんに怒られるとき、いっつも背中に隠れてごめんなさい。
遊園地行くって約束、断っちゃってごめんなさい。』


 謝罪ばかりが並ぶ手紙。


133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:27:39.28 ID:zykIwHaG0
 
ξ ゚⊿゚)ξ「私、ずーーっとあの子の担当だったんだけどさ。
      もー毎日毎日幸せそうにアンタのこと聞かされんの。やってらんない位ね」

 津田さんが俺を見ながら、何か言ってる。聞こえない。

『昔、私が将来なりたいものの話になったことあるね。
 あれ、口でいうのが恥ずかしいから、手紙にして残すな。』

ξ ゚⊿゚)ξ「――小さい頃から、もう長くはないって言われ続けてきてた」

 津田さんが、まだ、何か言ってる。

ξ ゚⊿゚)ξ「あの子の生きるエネルギーになったのは、あんたよ。ギコ君」

 うるさい、うるさい、うるさい。
なんで、全部終わったことみたいに言うんだ。なんで、全部過去形で話すんだ。


『私、大人になって、お嫁さんになりたいんだ。
 あ、ギコのじゃねーぞ? 自惚れんなよ? ……でも、こーほには上がってたかな』


 何だよ。この、最後に言い残したこと、みたいな手紙の内容は。


134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:28:33.67 ID:zykIwHaG0
 

『でも、それももーいいや。それよりもなりたいもの、っていうか。
 ならなきゃいけないものがあったから。』


 震える手が、滲む視界が、俺たちのネバーランドの終焉を告げている。
二通目を捲る。一枚目と打って変わって、二行しか書かれていなかった。



『ねぇ、ギコ。私、ピーター・パンになるんだ。』



 そして、


『私のことは、台風だと思ってくれな? ギコには、それが過ぎ去った青空だけを見ていて欲しいんだ。』




135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:29:51.78 ID:zykIwHaG0
05.大人になれないピーター・パン

 なあ、俺、今何歳だと思う?
もうすぐ30だぜ? おっさんだよ。笑えてくるだろ?
あ、心配すんな。職には就いた。そこそこ出世もした。毎日それなりにやっていけてる。

――――けど、一人だ。

ミ,,゚Д゚彡「お前がピーター・パンなら、俺はウェンディだよ――」

 “大人になれない”ピーターパンと“大人になりたくない”ウェンディ。
俺たちの役どころは、性別があべこべなそれだ。

 歳を取るたび、アイツの面影が記憶に押しつぶされてにじんでいくのがわかる。
それが嫌で嫌で仕方が無くて、「いやぁ、いいご縁がなくて」なんて言葉で濁して、俺は結婚や交際から逃げ続けている。

 なあ、「ピーターパン・シンドローム」って言葉、知ってるか?


“大人になりたくない大人”のことを言うんだってよ。


 ――これじゃあ、俺たちのどっちがピーターパンでウェンディか解ったもんじゃねぇよな。


 なあ。お前が大好きだったこの本じゃ、
成長から取り残されたピーター・パンの悲劇性ばかりが書かれているけれど、
大人になることによって、ピーターパンに置いて行かれたウェンディはどうすればいい?

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/28(水) 00:30:53.53 ID:zykIwHaG0
 秋の夜長は15年経った今でも明ける気配がなく、嵐の後、俺の心は掻き毟られたままだ。

 ――――いや、それも当然かもしれない。
心の奥底で、きっと俺は望んでいる。
明けずとも良いと、整理などつけなくて良いと、開き直ってさえいる。




 そうさ、俺のピーター・パンが窓を叩くその日まで。




           おしまい


あとがき
・支援ありがとうございました。以上で投下は終了です。
・ピーターパンの現代版かつ、『ウェンディが男の子でピーターパンが女の子だったら』ってもしもの話です。
・ピーター・パンの永続性というか、子どもの「永遠」を、
 取って点けたように「死」として表したところが反省点かなと思います。捻りがなさすぎた。
・久々にブーン小説を書けて楽しかったです。
・ここまで読んでくださってありがとうございまんこ。
05/14|総合コメント(1)トラックバック(0)TOP↑
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乙、久々にしっかり目な短編見た気がする。
From:  * 2013/05/17 13:45 * URL * [Edit] *  top↑
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