('A`) いつでも風は吹くようです
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1 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/03/31(土) 23:59:46 ID:aVwhgCt20

 いつだって、誰だって、
 遠い過去へ置き去りにしてきたものがある筈だ。

 埃をかぶったまま、くすぶり続けている思い。
 時々取り出してもすぐに仕舞い込んでしまう気持ち。

 今か今かと待っている、始まりの瞬間。

 飛び出す時は――







     ('A`) いつでも風は吹くようです
2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:02:00 ID:5DwzsHQ60 [1/37]

 晩冬も過ぎ、寒さが和らぎ始めた3月24日。

 高校の合格発表が終わって安心していた俺は、
 真昼だというのに、入学前の課題と睨み合っていた。


('A`)「……」

 数日前に配られた封筒の中に入っていたのは、高校の資料諸々と、
 何枚もある入学前の課題、そして入部届。


 うわぁ、と思った。
 せっかくゆっくりと春休みを過ごせると思ったのに、課題か、と。

 まあ、休み中ずっとだらけているのも良くないんだろう。
 予習と復習は大切だ、とは耳にタコが出来る程聞かされていた。


 しかしやる気は出ない。
 元々、勉強は好きな方ではないからだ。


4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:04:04 ID:5DwzsHQ60 [2/37]

 クラス内では中の中、平均的な成績に、帰宅部。

 あまり人と深く接する事もなく、特に目立った事もない、
 薄暗い中学時代。

 そこからやっと抜け出せたのに、今度は高校。


 高校まで暗い毎日を送るのはごめんだ。今度こそ、変わらなければ。


 でも、どうやって変えればいいんだろうか。
 てっとり早く、部活でも始めたらいいのか。

 ずっと憧れ続けて、結局入らなかったあの部活。

 今さら遅いかな。
 やっぱり、あの時にやっておけば良かったか。


 いつの間にか、過去に遡って考えていた。

5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:05:46 ID:5DwzsHQ60


     ※     ※     ※




( ゚д゚ )「これが世界陸上だ!」

('A`)「すげー!」

 小学3年の時だったか。

 友達との予定が合わず、家で時間を持て余していた俺に、
 父さんがビデオを見せてくれた。

 ビデオに入っていたのは、前年度の世界陸上。

 数ある競技の中でも、短距離走を見た時、俺の心は大きく揺さぶられた。

 100mを、10秒ちょっとで!

7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:07:39 ID:5DwzsHQ60

 我先にと駆け抜けていく選手達の姿から一瞬たりとも目を離せず、
 気が付けば自分も外に出て走り出していた。


 一直線に、風を切って走っていく感触がたまらなく好きになったのは、
 間違いなくあの瞬間だ。

 足の速さはクラスでも下の方だったけど。


('A`)「僕も陸上部に入りたい!」

 陸上部に入って、速く走れるようになって、あんな舞台に立ってみたい。
 そんな思いが沸々と湧き上がってきた。


 でも当時の小学校には陸上部がなく、辺りにも、
 陸上に関係した教室やクラブは無かった。

 教えてくれる人がいなくて、大いに落ち込んだ。

 父さんも仕事が忙しくなり、遊ぶ時間がざっくり減ってしまった。

8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:09:14 ID:5DwzsHQ60

J( 'ー`)し「中学校には陸上部があるから、我慢しな」

 母さんの言う事を聞き、教えて貰うのは中学まで我慢する事にした。


 でも、「走りたい」という欲求は容易に抑えられない。
 暇を見つけては、ちょくちょく河川敷で駆け回っていた。

 小学校のグラウンドよりも、河川敷の方が近かったから。

9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:10:40 ID:5DwzsHQ60


     ※     ※     ※




 考え事は部屋の中でじっとするよりも、
 散歩をしながらの方が幾分か落ち着く。

 中学生になってから分かった事だけど。


 一階に下りて、靴を履き、外へ出る。

 雲ひとつない青空からは柔らかい光が降り注いでいて、
 暖かささえ感じられた。


 少しずつ広がっている春の気配。
 また一巡してやって来る新しい季節に、期待と寂しさが募っていく。

10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:12:02 ID:5DwzsHQ60

('A`)

 住宅街の一角にある、小さな公園へ足を踏み入れた。

 公園と言っても、滑り台、ブランコ、
 ベンチがぽつぽつと置いてある質素な公園だ。

 いくつか桜の木が植えられているけどまだ咲いておらず、
 膨らみかけたつぼみが、咲く時を待っているだけ。

 ベンチにはデミタスさんが一人で座っていた。


('A`)「こんにちは」

(´・_ゝ・`)「お、ドクオ君か」

('A`)「ジョギングですか?」

(´・_ゝ・`)「まあね」

11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:13:53 ID:5DwzsHQ60

 気の優しそうな顔に、紺色のジャージという出で立ち。
 近所に住んでいるデミタスさんとは、何度か話をした事がある。

 独身のサラリーマンだ、と本人の口から聞いていた。


(´・_ゝ・`)「オリンピックを目指してね」

('A`)「あー……はい!?」

 素直に驚いた。

 デミタスさんはもう三十路を超えている筈だ。
 それに、走っている姿なんて今まで一度も見ていない。

 まさに夢物語だ、と思わずにはいられなかった。


(´・_ゝ・`)「子供の頃、夢見てたんだよ。
      今、来月のマラソン大会の為にトレーニングしてる所さ」

('A`)「そうなんですか」

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:15:52 ID:5DwzsHQ60

 今さら始めても遅いだろう、と言いかけた所を辛うじて飲み込む。


('A`)「頑張って下さい」

(´・_ゝ・`)「おう、ありがとう。じゃ、また走り込みしてくるか」

 どうやら本音には気付いていないようだ。
 デミタスさんは立ち上がり、颯爽と公園を出て行った。


 後には、ベンチに座っている俺が残されている。
 風は吹かず、鳥のさえずりも聞こえず、静けさだけが辺りを包む。

('A`)「……ハァ」

 どうしてか静寂に息苦しさを感じて、溜息を吐いた。

15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:17:24 ID:5DwzsHQ60

 ここは自分の居場所じゃない、ここに居るべきじゃない。

 そう思いつつも、このままの方が楽でいられるような、
 曖昧な所で漂っているような感覚に陥ってしまう。

 仰ぎ見た青空さえ、どこか窮屈に感じる。


('A`)「ったく」

 重い腰を上げて、公園を去る。
 歩き出す事にも億劫になっているようじゃ、何も出来はしないな。

16 名前:書くのを忘れていた、「短編」[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:18:50 ID:5DwzsHQ60


     ※     ※     ※




 走り込みを始めて何ヶ月か経った頃、
 河川敷に黒猫が現れるようになった。

(,,゚Д゚)

 捨て猫か? と思ったけど、首輪はついていなかった。野良猫だ。

 体は細く、他の猫と戯れている様子もなく、
 いつも一匹で河川敷に佇んでいた。


('A`)「おいでー」   (゚Д゚,,)

            シュバッ
('A`)「 」       -ニ三(,,゚Д゚)

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:20:22 ID:5DwzsHQ60

 触れ合いたくて呼びかけるけど、逃げ出す。
 好きにしろ、と不貞腐れて走り込みをする。

 その繰り返し。


 やがて俺が危害を加えない人間だと分かったのか、
 近付いても逃げ出さなくなった。


(,,゚Д゚)「ゴルァ!」

 会った時からまた何ヶ月か経って、初めて鳴き声を聞いた。

18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:22:19 ID:5DwzsHQ60

 猫とは到底思えない鳴き声が気に入って、とっさに名前を付けた。

 「ギコ」。


 何故そんな名前を思いついたのか分からないけど、
 それ以来は「ギコ」と呼んでいる。

 持前の俊敏な動きでネズミを捕らえ、咥えて持ってきたりもするギコ。


 迷惑だったけど、微笑ましくもあった。

20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:23:49 ID:5DwzsHQ60


     ※     ※     ※



 住宅街をどんどん歩くと現れる、開けた場所。
 割と大きな川の脇には芝生の土手があり、橋も架かっている。

 河川敷。散歩をする時は決まってここを歩くことにしている。
 穏やかな流れの川を眺めていれば、自然と気分も安らぐからだ。

 休日の真昼というのもあってか、同じく散歩をする人や、
 ジョギングする人もちらほら。


('A`)「お」

 芝生の上をゆっくり歩く、一匹の黒猫が目に映った。

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:25:40 ID:5DwzsHQ60

(,,゚Д゚)

 ギコ。

 見た目からでは分からないけど、もう10歳を超えるらしい。
 人間の年齢に換算すれば約70歳。

 野良猫は、10歳を超えるのは困難だと聞いた事がある。


('A`)「おう、ギコ」

(,,゚Д゚)「ゴルァ!」

 子供の頃に「ギコ」と呼んでいるのを誰かが見たからか、
 周りの住人もそう呼ぶようになっていた。


('A`)「あの頃はもっとピンピンしてたのになぁ」

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:27:13 ID:5DwzsHQ60

 流石に年老いてきたのか、最近は動きが少し鈍ってきた。
 この前は、ネズミに逃げられる所も目撃している。

 でも、誰も拾おうとはしない。


 ギコは6年前からずっと河川敷に住みついていて、
 今や守り神ならぬ「守り猫」として特別な存在となっているからだ。

 ヴェルタースオリジナルではない。


(  ,,゚)

 背中に哀愁をちらつかせて、ギコは去っていく。
 もう長くはないだろう。その時が来たら、立派な墓でも作ってやるか。


('A`)

 足を進めると、右に、今まで通っていた中学校が見えてきた。
 河川敷のすぐ側という事もあり、散歩中はここの生徒達をよく見かける。

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:29:10 ID:5DwzsHQ60

 ただ、今は春休み中。生徒の姿は全く見られない。


 俺は立ち止まり、ただっ広いグラウンドを金網越しに見つめた。

 青空の下で練習に励む運動部の中、
 野球部やサッカー部には目もくれず、陸上部を食い入るように見る。


 部員達が前傾姿勢になって、スタートラインにつく。
 空気が張り詰めて静まり返るのが、ここからでも良く分かった。

 顧問と思しき男が「よーい」と声を発した数秒後、

('A`)「!」

 乾いた音が景気よく響き、部員が一斉に駆け出した。

24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:30:53 ID:5DwzsHQ60


     ※     ※     ※




 小学校を卒業し、中学校に入学して数日後。

 俺は入部届けに「陸上部」と書き、
 期待で胸を一杯にして学校へ向かった。


 悶々としながら授業を終え、新入生の為の部活見学へ急ぐ。
 向かう先は勿論、陸上部。


('A`)「おお」

 短距離走だけじゃなく、ハードル走や砲丸投げも見学できた。
 部員はどの人もエネルギッシュで、楽しくやっている。

25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:32:19 ID:5DwzsHQ60

 見学が終わって帰り際、記念に100m走のタイムを計る事になった。
 数人の見学者と一緒に、スタートラインにつく。

(;'A`)「……」

 人前で何かをやる事に慣れていないからか、緊張して鼓動が高鳴る。
 走る事は好きなのに何でだろう、足も震えてくる。

 掛声の後、ピストル音がして。


(;'A`)「うおっ!」

 転んだ。足がもつれて、前のめりに転んだ。


 痛みと悔しさで起き上がれず、寝転がったまま足を見る。
 膝には傷が出来ていて、血も出ていた。

26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:34:15 ID:5DwzsHQ60

 部員の人が慌てて駆け寄ってくる、ざわめきが起こる。
 そのざわめきの中から、かすかに。

 笑い声が聞こえた。嘲笑。転んだ自分を、嘲る声。


 それを聞いた時、俺のやる気はぷっつりと消えた。

 自信を失い、走る事も無くなってしまった。
 父さんにシューズも買って貰ったのに、入部を諦めた。


 よく散歩をするようになったのはそれからだったか。
 苦しさと情けなさを紛らわす為に、景色を眺めながら歩く。

 散歩をしていると、嫌な事も忘れてしまえそうだった。

 虐められはしなかったという事が、唯一の救いだったな。

27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:35:57 ID:5DwzsHQ60


     ※     ※     ※




('A`)「はーぁ」

 数十秒経って全員がゴールしたのを見届け、グラウンドから離れる。

 じっと見ていても金網を越える事は出来ない、
 張り上げられる声を背に住宅街へと戻る。


('A`)

 おぼつかない足取りで歩き続けても中々帰る気にはなれず、
 もう一度、公園へ入ってベンチに座った。


「お、今度は先客がいるな」

28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:37:08 ID:5DwzsHQ60

('A`)「?」

(´・_ゝ・`)

 俯いていた顔を上げると、デミタスさんが立っていた。
 少し前のジャージ姿とは違い、白いTシャツにジーパンというラフな格好だ。

('A`)「なんですか」

(´・_ゝ・`)「ああ。トレーニングが終わったからね、ゴミを出していたんだ。
      収集庫がいっぱいだったから、詰めるのに苦労したよ」

('A`)「そうですか」

(´・_ゝ・`)「何かあったのかい?」

 突然の質問に、言葉が詰まる。

29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:38:34 ID:5DwzsHQ60

('A`)「どうしてですか」

(´・_ゝ・`)「いや、いつもよりぶっきらぼうな喋り方だったから、つい」

 そうだったかな。

 喋り方を気にする事なんて目上の人と話す時くらいしか無いから、
 いつもとの違いが分からない。


('A`)「いや別に。高校で入る部活が決まらなくて悩んでるだけです」

(´・_ゝ・`)「へぇ」

 適当な相槌が聞こえる。
 咄嗟についた嘘だから、すぐに見破られたしまったのかも知れない。

(´・_ゝ・`)「部活を始めるのが、怖いのかい?」

('A`)「それはまあ、ありますけど」

30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:40:03 ID:5DwzsHQ60

(´・_ゝ・`)「だろうね。僕も怖かった」

('A`)「部活がですか?」

(´・_ゝ・`)「違う違う、マラソンの事さ。ちゃんと走れるか、凄く不安だったなあ」

 笑いながら語るデミタスさんの目は、どこか遠くを見ているようだった。


(´・_ゝ・`)「『オリンピックを目指す為にトレーニングを始める』って言った時も、
      結構笑われたなあ。ドクオ君も、馬鹿らしいと思っただろう?」

('A`)「そんな事」

(´・_ゝ・`)「思っただろう?
      僕は本音で話してるんだからさ、君も本音で話してくれよ。
      別に怒ったりはしない。僕自身馬鹿らしいと思ってるんだから」

('A`)「……」

31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:41:40 ID:5DwzsHQ60

 じゃあ、何で始めたんだろう。

 馬鹿らしいと思っていながら、苦しい思いをする事が分かっていながら、
 どうして続けていられるんだろう。


('A`)「何で」

(´・_ゝ・`)「?」

('A`)「何で、始めたんですか」

(´・_ゝ・`)「簡単、簡単。好きだからだよ、マラソンが。
      今までは憧れて、ずっと見ているだけだったけど、
      やっぱりやりたいと思ってさ」

('A`)「……」

32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:43:31 ID:5DwzsHQ60

 好きだから。走りたいから。

 一番シンプルで、純粋な思いだからこそ、
 それが最も大きな動力源になり得るんだろう。

(´・_ゝ・`)「オリンピックなんて夢のまた夢なんて、自分でも分かってる。
      でも、どこまでやれるか試してみたいんだ。
      死ぬ時に後悔するとしても、やってからの方が気持ちいいと思うし」

('A`)「そう、ですかね」

(´・_ゝ・`)「死んだこと無いから分からないけど、多分」

 後悔か。
 俺もこのままだときっと、いや絶対に後悔する事になりそうだ。


(´・_ゝ・`)「君が羨ましいよ」

('A`)「へ?」

(´・_ゝ・`)「『もっと若い頃からやっておけば』ってさ、思う時があるんだ。
      まだ君なら、いくらでも走れると思うよ」

33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:44:59 ID:5DwzsHQ60

('A`)「そうですかね……」

(´・_ゝ・`)「そうさ。僕も君くらいの時、やろうと思って結局やらなかったから。
      誰だって、遠い過去へ置き去りにしてきたものがあるんだ」

 置き去りにしてきたもの。
 いつか拾う時が来るのなら、それはいつだろう。

(´・_ゝ・`)ノ「じゃあ、帰るよ。そろそろ夕食の用意しなくちゃな」

 デミタスさんは手を振って、背中に力強さをみなぎらせて、
 公園を出て行った。
 
('A`)ノ

 俺も軽く手を振る。


 そろそろ、帰ろう。
 体に鞭を打って、思いを巡らせながら家路につく。

35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:46:27 ID:5DwzsHQ60

('A`)「ただいま」

 家に帰ると、時計の針はもう16時を回っていた。
 休日は本当に、あっという間に時が過ぎていく。

 高校の資料をじっくり眺めているだけで、もう夕食の時間になった。


( ゚д゚ )「ドクオ、高校に入ったら部活の一つくらいやってみる気はないのか?」

 リビングのテーブル、俺の向かいに座っている父さんが言う。

 話す時に目力を極端に強くする癖は直して欲しい、
 と思いつつ、口の中のカレーを飲み込んで言った。

('A`)「まだ決めてないよ」

( ゚д゚ )「陸上部には入らないのか? ずっと前、あれ買ってやったじゃないか」

36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:48:08 ID:5DwzsHQ60

('A`)「今のところは……」

J( 'ー`)し「本当は迷ってるんじゃないの? 優柔不断なところだけ似てる」

 母さんが、話しながらテーブルに座る。

( ゚д゚ )「ん? 誰にだ?」

J( 'ー`)し「あなたに。『お腹が気になるからジムに通おうか』って言ってから、
      1ヶ月は経ってると思うけど。
      近所のデミタスさんなんて、オリンピック目指してるのに」

( ゚д゚ )「それはだな……」

 言葉に詰まっている父さんを尻目に、俺は黙々とカレーライスを食べる。


('A`)「ごちそうさまでした」

37 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:49:25 ID:5DwzsHQ60

 いつもより早く食べ終えて、自分の部屋に戻った。

 外はもう真っ暗。僅かに肌寒さを感じて、赤外線ヒーターの電源を入れる。
 こんなことなら、まだこたつを片づけなくても良かったな。


 寒くても悴む程じゃないから、手は普段通りに動く。

 デミタスさんとの会話を思い出して、部屋の隅にある真っ白な箪笥を開けた。
 ギイ、と軋む音。

 奥の方に見える、黒い布の袋。

 いつもなら、取り出そうと手を伸ばした所で躊躇する。

 心に引っ掛かった不安を拭い切れなくて、
 掴む事が出来ずに、手を引っ込めてしまう。

38 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:51:09 ID:5DwzsHQ60

 何度繰り返しただろう、何度「やろう」と思っただろう。


 もう、やめにしよう。


 意を決して黒い袋を掴み、開けて中身を取り出す。

 綺麗な新品のシューズともう一つ、
 クシャクシャに丸まった紙が、袋から出てきた。

 懐かしい痛みが湧き上がるのを堪えながら、紙を広げる。

('A`)「――」

 中学時代の、あの時の入部届け。

 シワだらけでよれよれになってても、なんとか字は読める。

39 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:53:04 ID:5DwzsHQ60

 入部届けには、名前・希望する部活・希望する理由を記入する欄が、
 それぞれ設けられていた。

 その中の、希望する理由に書かれている事。


 『走る事が好きだから』。

 一番シンプルで、純粋で、力強い思い。
 あの時にはまだ無かった、強固な心。

 これをしっかりと持っていれば、どんなに笑われたってやっていける。

 転んでも挫けそうになってもまた這い上がれる、
 そんな確信に満ちた直感が、体中に溢れてきた。


('A`)「やってやる」

40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:54:47 ID:5DwzsHQ60

 この日だけは、夜が過ぎるのをいつもより短く感じた。
 すんなりと眠る事ができて、翌日も気持ち良く目覚められた。

 朝食も終え、小休憩。

 お茶を飲んでいると、母さんが洗い物をしながら話しかけてきた。

J( 'ー`)し「そうそう、今日ゴミを出してたらね。
      公園の桜が咲いてたよ。まだ満開じゃないけどね。
      もうすっかり春ねぇ」

('A`)「へぇ、いつもより早いんじゃない? ここら辺じゃ」

 いつもなら四月になってから咲く筈なのに、珍しい事もあるものだ。
 最近、暖かかった所為だろう。

('A`)「じゃ、いってきます」

J( 'ー`)し「いってらっしゃい」

41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:56:32 ID:5DwzsHQ60

 玄関を出て、大きく深呼吸。
 外は昨日のようなぽかぽか陽気で、冬の名残はどこにも感じられない。

 いつもと同じ道を通り、まっすぐに河川敷へ向かう。


('A`)「ん。んん!?」

 河川敷に着いて準備体操――しようとして、足元にある「何か」に気が付いた。

 ネズミの死骸だ。
 小さい、茶色いネズミが、ぴくりとも動かずに横たわっている。

 まさか。まさか、あいつがやったのか。

 辺りを見回す。
 土手の上、小さくなっていくギコの後姿を発見した。

('A`)「ほー」

42 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 00:59:49 ID:5DwzsHQ60

 もう老いていくだけかと思ったのに、年をとっても充分やれるみたいだ。
 6年前の事を思い出して、思わずにやける。

 俺もやってみるよ。自分が出来る所まで、全身全霊を傾けて 。

('A`)「さーて」

 短距離走は久し振りだ。
 入念に準備運動をし、きちんと体をほぐして、しゃがみ込む。


 気持ちを落ち着かせてから前傾姿勢になる。
 すると、生暖かい風が吹いた。

 後ろから前へと、勢いよく吹きぬける風。

 追い風だ。
 それを逃さないように、しっかりと足を踏みしめて、

43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/04/01(日) 01:00:42 ID:5DwzsHQ60

('A`)「!」

 走り出す。迷いも不安もかき消して、全力で前へ飛び出す。


 風の中でのスタートダッシュは、今までで最高に気持ち良かった。





     ('A`) いつでも風は吹くようです おわり
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