lw´‐ _‐ノvシュルレアケーキのようです 第四話
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97 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:49:12 ID:OSOvWE.o0 [1/23]
第四話「ともだち」


 沈黙が私たちを見捨てたりしないのは、誰も物理から法則を奪えないためだ。
単位や公式は不特定多数のなかの一人として、私たちの雑踏に、葛藤に、至る所に紛れ込んでいる。

 彼らの視線に耐えるために、自然と声は張り付く。
それはやがて強固になって洪水の地下室を覆い、いつからか私は誰かの目を見て話せない。

 街が一つ入りそうなほど大きなダムと、そこになみなみと注がれた水。
その圧倒的な水量を支える、コンクリート製の堤防の上に私たちは立っていた。

(゚、゚トソン「……」

(#゚;;-゚)「……」

lw*´‐ _‐ノv「ははは……」

 思わず私は笑ってしまった。
どうして笑っているのか、私は自分でそれが分からなかった。

98 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:50:09 ID:OSOvWE.o0 [2/23]

 ふと考えれば、私たちは自由に悲しくなったり嬉しくなったりはできない。
向かい合った物事に応じて、そのつど不可避である気分に投げ込まれてゆく。

 気分と私は切っても切れない関係にあるらしい。

(#゚;;-゚)「遠くに船が見える」

(゚、゚;トソン「ええ、どうしてこんなところに」

lw´‐ _‐ノv「うん」

(゚、゚トソン「一応、こちらに向かってきているみたいですが……」

 ここから鉛が賛否を呼べば、両手を銀で編んだ波が立ち、微かに揺れた。
水平線に混ぜ込んだ鈴が冷めるのを、ただ火を青ざめた対象として冷静に観測する。

 ダムの中央辺りに浮かぶ帆船は、少しずつ鮮明に見えてくる。
ひとまず、私たちは近づきつつある船の到着を待つことにした。

100 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:51:00 ID:OSOvWE.o0

(゚、゚トソン「それにしても、一体どうなっているのでしょう」

(#゚;;-゚)「何もわからないけど、悪くない」

(゚、゚トソン「少し状況を整理してみませんか?」

lw´‐ _‐ノv「うん。……ええっと、雑貨屋さんにいたんだよね?」

 私は半ば確かめるようにそう答えた。
緑や黄の蛍光色に、小さな針が唯一のオブジェとして足を組む。

 気になって後ろを振り返ると、上ってきた階段はあるものの屋内にはつながっていない。
下の方にはダムの事務所らしき建物があるだけで、その先は一本の道路と森が続いている。

(#゚;;-゚)「そう」

(#゚;;-゚)「それで熱帯魚のエサを見つけた」

(#゚;;-゚)「階段を上った」

(#゚;;-゚)「ダムに」

 最後まで言うのが面倒になったのか、でぃの言葉は途中で途切れた。
けれども飾りのない分かりやすい説明で、私はでぃのこういうところが嫌いではなかった。

101 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:52:05 ID:OSOvWE.o0

(゚、゚トソン「ですが、僕はまるでこの状況を理解していません」

lw´‐ _‐ノv「足もとを見ながら階段を上ってたけど」

lw´‐ _‐ノv「前を見たらもうダムだったよ」

(#゚;;-゚)「同じ」

(゚、゚トソン「……階段を上る、ある種の運動」

(゚、゚トソン「そして気付けば、僕たちはこの状況に巻き込まれていました」

(゚、゚トソン「……」

(#゚;;-゚)「……」

lw´‐ _‐ノv「……うん?」

(゚、゚トソン「僕たちは、あるいは本当に存在しているのでしょうか?」

102 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:53:18 ID:OSOvWE.o0

 トソンのこの言葉を皮切りに、私たちの井戸端哲学談義が始まった。

 強い風がダムの水面を揺らし、夏の日差しを浴びる私たちをいくらか心地よくさせる。
目の前の井戸はバケツで水を何杯汲んでも有り余り、時間もまだありそうだ。

lw´‐ _‐ノv「二人とも見えてるし、ちゃんと存在してるよ」

(゚、゚トソン「ですが幽霊も見えますよ。ほら、心霊写真とか」

(#゚;;-゚)「思う、ゆえになんとか」

(゚、゚トソン「ううむ……、確かにそれはそうですが」

(゚、゚トソン「では、思うところの僕たちとは一体なんでしょう……」

lw´‐ _‐ノv「私とは誰であるか、ということ?」

(#゚;;-゚)「……」

(゚、゚;トソン「ちょっと待ってください。自分でも混乱してきました」

 類推の山々を築いては崩し、頭の中の海辺には無数の砂山が乱雑し始める。

104 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:54:19 ID:OSOvWE.o0

lw´‐ _‐ノv(……)

 私は自分の目で、ゴミや漂流物の散乱した汚れた海しか見たことがない。
ダムいっぱいの青く透明な水はあまりにも綺麗で、ここが完璧な海と錯覚しそうになる。

 どこまでも沈んでゆけそうなダムの海。
本当にこの場所に、溶けた魚は戻ってきているのだろうか。

(゚、゚トソン「シューはどう思います?」

lw´‐ _‐ノv「ん……」

 名前を呼ばれて、私は少しぼんやりしていたことに気がついた。
聞いていなかったというのも悪く思い、曖昧に答える。

lw;´‐ _‐ノv「えっと、新しい種類のジョークっぽい、……かな」

(゚、゚*トソン「冗談ですか。それは面白い見方ですね」

(#゚;;-゚)「うん、確かに」

 未定義の白線に唇が触れるとき、ハンカチに包んだ月は痙攣しそっと腕を掴むのだろう。
何故だか和やかな雰囲気に覆われ、私はホッとした。

106 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:55:26 ID:OSOvWE.o0

(#゚;;-゚)「ガレオン船だ」

lw´‐ _‐ノv「ガレオン船?」

 時間とともに日差しも幾分落ち着いてきたらしい。
もう船はすぐ目の前にまで来ていて、細部までよく分かる。

(#゚;;-゚)「うん」

(゚、゚トソン「歴史の教科書に載ってましたね」

lw´‐ _‐ノv「うーん、そうだっけ……」

 木製であろう船は、複数のマストに真っ白い帆が何枚も張られている。
ロープが複雑に交差していて、まるで蜘蛛の巣みたいだ。

 船体は細長く巨大で、何故だかダムの海にはよく似合っているように思える。

 それにしても私たちは、なんて距離やサイズの合った中で生活しているのだろう。
きっと大きな器でお茶を飲もうとすれば、少しの震えで口元を濡らしてしまう。

 目の前の広いダムと大きな船は、私にそんなことを考えさせた。

107 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:56:30 ID:OSOvWE.o0

(゚、゚トソン「いよいよ着きますよ」

lw´‐ _‐ノv「うん」

 ガレオン船が静かにダムの岸に到着した。
三本のマスト横の滑車が人もいないのに回り出し、不思議なことに帆は自動で下ろされた。

 それから甲板に男が現れ、ダムの堤防と船に渡し板の橋を掛けた。
彼は、演劇のような派手な動きでおじぎをして言った。

('A`)「えー……、ようこそ瞬間号へ」

(゚、゚トソン「……」

(#゚;;-゚)「……」

lw´‐ _‐ノv「……」

 ダイヤモンドと塩の輝きは同等であり、ベランダは泳いだ粒子の隙間と変わりはない。
疲労によってふいにした水曜日は、しばしばアルミの落ち葉が幻覚となった。

108 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:58:46 ID:OSOvWE.o0

 男はつばの折れ曲がった真っ赤な帽子、ポロシャツにジーンズというおかしな格好をしている。
私は、駐車場で出会ったちぐはぐな服装の集団を思い出した。

(;'A`)「いや、ちょっと……。船を待ってたんじゃないのか」

(゚、゚;トソン「えっと、何故そう思うんです? ダム見学かもしれませんよ?」

('A`)「何故って、そりゃあ、あんたたちがここにいて俺が船乗りだからさ」

('A`)「ダム見学でも、ダム清掃に来たわけでもないだろう?」

(゚、゚トソン「そうですけど……」

 トソンは、困ったような顔をしながら私とでぃの方をふり向いた。
船を待つには待っていたが、乗るべきなのかはまるで検討もつかない。

 煮え切らない私たちの態度を見かねたのか、男はため息をついて言った。

('A`)「いいから、乗りな。お連れの方が待ってるよ」

(#゚;;-゚)「……連れ?」

109 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 19:59:46 ID:OSOvWE.o0

 船の甲板へと目をやると、誰かがこちらに手を振っている。
寝ぼけた髪に猫背の男、雑貨屋の店主エクストだった。

 ギシギシと音を立てる板を私たちは不安げに渡り、船に乗り込む。
見た目に反してデッキの上は、ボートや縄、木箱などが置かれていて意外と狭い。

('A`)「俺のことはキャプテン・ドクオと呼んでくれ」

(゚、゚;トソン「え、ええ……」

 キャプテン・ドクオと名乗るその男は、いわゆる船乗りのイメージとは間逆だった。
痩せた体つきをしていて、どこか繊細そうな雰囲気を漂わせている。

 私たちも名を名乗ると、彼は風変わりなことを訊ねた。

('A`)「そうかい。ところで、君たちはほかにも名前があるのかい?」

lw´‐ _‐ノv「ほかにも?」

('A`)「ああ、マトンだとかビタミンだとかさ」

lw´‐ _‐ノv「……」

(゚、゚;トソン「……あります?」

(#゚;;-゚)「ない」

110 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:00:40 ID:OSOvWE.o0

('A`)「……なけりゃ、ないでいいよ。そこの段差に気を付けて」

(゚、゚;トソン「ええ……、どうもありがとう」

<_プー゚)フ「やあ。先に着いていたから、一往復してたよ」

 メインマストの隣にいたエクストに近づくと、彼はなかなか気長なことを話した。
とにかく私たちを待っていたらしいことが伝わり、私は黙っておじぎをした。

(゚、゚トソン「あの、この船はどこに向かうのですか?」

('A`)「どこって、彼岸だよ。向こう岸」

<_プー゚)フ「ダムの反対側さ。一時間も掛からなかったよ」

 論理的な白血球は自らを犠牲にして、エレベーターに閉じ込めた魂を支援する。
いい匂いのする液体思考はオーダーメイドの美しさを締めつけ、また追究した。

('A`)「では、到着までの間、どうぞごゆっくり」

111 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:01:29 ID:OSOvWE.o0

('A`)「あー、白い羽の老鳥がピーピーエスと歌うから~」

('A`)「俺にはここがちょうどいい~……」

 絶えず引退する演奏には、アジサイの過度の彩りと対極の優しさがある。
どこか寂しい調子の歌を口ずさみながら、キャプテンは船内へと降りていった。

 しばらくして帆が勝手に上がり、船は動き出した。
水面が白い波を立て飛沫となって、船のふちへぶつかってゆく。

(#゚;;-゚)「それは何?」

<_プー゚)フ「これかい? キツネ貝だよ」

 エクストが持っていたのは、褐色の線が縦に並んだ手のひらほどの貝だった。
毛のない白いキツネらしきものが、口の開いた貝のなかに横たわっている。

(゚、゚;トソン「なかなかグロテスクな貝、ですね……」

<_プー゚)フ「船長からもらったんだ。美味しいらしい」

(゚、゚;トソン「そうですか、またの機会に……」

 お腹は減っていたけれど、私もあまり食べたいとは思えない見た目だった。
貝から視線を逸らすと、木箱の上に醤油のビンが見える。まさかそれで食べるのだろうか。

112 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:02:55 ID:OSOvWE.o0

<_プー゚)フ「さて、色々と聞きたいことがあるんじゃないかな」

(゚、゚トソン「もちろんありますとも! 一体全体、ここは何なのですか!?」

<_プー゚)フ「うん、どう言えばいいのかな……」

lw´‐ _‐ノv「……」

(#゚;;-゚)「……」

<_プー゚)フ「僕らは自らの常識に頼って生きているけど」

<_プー゚)フ「この世界は、僕らを頼りにしてるんだよ」

<_プー゚)フ「つまり僕らがここに持ち込んだものが、この世界全てなんだ」

(#゚;;-゚)「具体的にどういうこと?」

<_プー゚)フ「そうだ、いい例がある。ちょっとした昔話なんだけど……」

 長い話になると思ったのか、そばの樽の上にでぃは腰を掛けた。
一体どんな話なのか興味をそそられた私とトソンは、その場で彼の言葉を待つ。

 予想通り彼はキツネ貝に醤油をかけ、それを口にするとゆっくり話し始めた。

<_プー゚)フ「秘法をスコップに宿して、ワタナベはこの世界にたどり着いた」

113 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:04:09 ID:OSOvWE.o0

<_プー゚)フ「ある日、彼女は植物の苗木を植える老人に出会ったんだ……」

 彼女はガーデニングが好きだったから、老人に何を植えたのか話しかけた。

从 ー 从「おじいさん、こんにちは。何を植えているの?」

爪 ー )y‐「ん? ああ、これかい? ネコヤナギだよ」

 ワタナベは、まだ若い葉の眩しい苗と老人の庭を眺めた。
ネコヤナギは乾燥した土に適していないことを、彼女は知っていた。

 背の曲がったそのお年寄りに、ワタナベはネコヤナギの育て方を熱心に説明した。
なによりここで人に出会うのは初めてだったし、元々彼女は人が良かった。

 老人は最後まで話しを聞いてから、にっこりと笑って言った。

爪 ー )y‐「どうやら、ここに来てからあまり日が経ってないようだね」

爪 ー )y‐「明日にもう一度、いらっしゃい」

114 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:06:26 ID:OSOvWE.o0

 翌日になって彼女が再びそこを訪れると、雪のような花穂が真夏の庭を彩っていた。
彼女の背丈ほどもなかったネコヤナギが、一晩で見上げる高さまで育ち、咲き乱れている。

 ワタナベはショックを受け、また同時に感動して、永遠にこの世界にいようとさえ思った。

 彼女は老人に感謝を告げてそこを去り、何をするか決めた。
それからただひたすら、ワタナベは何年も何十年も鏡を見ずに過ごした。

<_プー゚)フ「……毎分毎秒ごとに、僕らは年老いてゆく」

<_プー゚)フ「その中で歳をとらないことを常識だと思い込み続けるなんて、相当なジレンマだよね」

<_プー゚)フ「それでも彼女はそれを成し遂げ、僕らはここにいる限り、歳をとらなくなったんだ」

(゚、゚;トソン「はい? なんて言いました?」

lw´‐ _‐ノv「歳をとらない……」

<_プー゚)フ「そうさ、人は誰も歳をとらない」

 紙一重の終結した叫び、円盤となりつつある孤独の浮上が散乱する。
止まるように倒れるスクリーンに、無限の土の現象が前後左右に顔を剥いでゆく。

 エクストの話しを聞いているうちに、私はだんだんと嬉しくなってきた。
この世界のことが少し分かった気がする。

115 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:07:35 ID:OSOvWE.o0

 駐車場で演説をしていた人とその周囲にいた聴衆は、気が変になっていたのではなかった。
彼らは恐らく、彼らなりの方法でこの世界を変えようとしていたのだ。

 そしてそれは可能らしい。
目の前の空気やダムの水が可能性のかけらに思え、気のせいか輝いて見える。

<_プー゚)フ「想いや感情、誤った知識、あらゆるものがここに持ち込まれてくる」

<_プー゚)フ「それが君たちの歩く道や、この貝のようになるんだよ」

(゚、゚;トソン「……信じられません」

<_プー゚)フ「ほら、何もない場所に影があるだろう? あれも誰かが持ち込んだ品物さ」

lw´‐ _‐ノv「えっ?」

 エクストが指し示す方向には、私たちが追いかけていたあの暗闇があった。
視界の片隅にちょこんと入るあの染みも、ここまで来ていたらしい。

<_プー゚)フ「この世界から出るには二通りの方法がある」

<_プー゚)フ「宿した秘法を開放するか、持ち込んだものを返すかさ」

<_プー゚)フ「じゃあ、僕はこの貝がらを置きに船内へ戻るよ」

(゚、゚;トソン「ええ……」

116 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:09:38 ID:OSOvWE.o0

今の話しについて考え込んでいるらしく、トソンはむずかしい顔をして遠くを見ている。
でぃの考えを聞いてみようと彼女の座っていた所を振り向くと、でぃは樽から立ち上がっていた。

(#゚;;-゚)「……そっか」

lw´‐ _‐ノv「どうしたの?」

(#゚;;-゚)「分かった」

(#゚;;-゚)「あの染みは、私なんだ」

 そう言うやいなや、でぃは落ち着いた足取りで船尾へと歩き出す。

(゚、゚トソン「でぃ……?」

 そのとき私ははっきりと見た。
遠ざかってばかりだったあの暗闇がでぃの方へと向かってくるのを。

 円形の暗闇は水面から船の上へと移動し、でぃも暗闇へ進んでゆく。
すぐにでぃは、黒い影にすっぽりと覆われて見えなくなった。

 影はしだいに薄れて消えてゆく。
そこにでぃの姿はなかった。

117 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:11:02 ID:OSOvWE.o0

lw;´‐ _‐ノv「でぃちゃん!」

(゚、゚;トソン「……」

 亀のいる場所へとアキレスは走れど、あの長生きの爬虫類はさらにその向こうまで進んでいる。
追い越そうと全力で地を駆けても、永遠に彼は亀に辿り着けない。

 でぃが染みと呼ぶ闇は、このパラドックスのたとえに似ていた。

 私とトソンは半分呆気にとられ、それでも半分納得していた。
暗闇とでぃのパラドックスは、何かに気付いた彼女によってあっさりと幕が降ろされたらしい。

 でぃは自分のなかの矛盾したものを捕らえ、それに向き合ったに違いない。
おそらく彼女は、無事にもとの世界に帰れたのだろう。

 そう思わなければ、私はデッキの上で立ってすらいられなかった。

(゚、゚トソン「……あの」

lw´‐ _‐ノv「……」

118 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:11:52 ID:OSOvWE.o0

(゚、゚トソン「実は僕、動物園に行ったことがないんです」

lw´‐ _‐ノv「……一度も?」

(゚、゚トソン「ええ。もしかしたらそのことで、僕が持ち込んだものがあるのかも……」

lw´‐ _‐ノv「まさか……」

(゚、゚トソン「ですよね」

lw´‐ _‐ノv「……」

(゚、゚トソン「僕たちもすぐに帰りますからね、シュー」

lw´‐ _‐ノv「トソ……」

 トソンの話しが本当なのか冗談なのか、私はよく分からなかった。
けれど彼女は彼女なりに、落ち込んだ雰囲気を変えようとしていたらしい。

 そのおかげか、心細くなった気持ちが少し軽くなったのを感じる。
ぽつりと感謝を述べると、トソンは首をふって言った。

119 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:12:58 ID:OSOvWE.o0

(゚、゚トソン「そうだ、シュー。熱帯魚のエサをまいてみましょう」

lw´‐ _‐ノv「うん」

 トソンにそう言われるまで、持ってきたエサの缶のことをすっかり忘れていた。
ガレオン船は風を受け、既にダムの中央辺りまで来ている。

 腰の高さほどの船の手すりから下を覗くと、水面は五、六メートル先のところにある。
私は熱帯魚の缶からフタを外し、何度か缶を振った。

 茶色いふりかけのようなエサは風に流され、後方へと落ちてゆく。
やがて船が立てる波に巻き込まれ、見えなくなった。

(゚、゚トソン「……」

lw´‐ _‐ノv「……」

(゚、゚トソン「イワシ、現れませんね」

lw´‐ _‐ノv「うん……」

120 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:14:14 ID:OSOvWE.o0

 どこからかイワシが現れないか、じっと水の上を眺める。
しばらくしてトソンは興味を失ったのか、何かブツブツ呟きながら船の上を歩き始めた。

 次第に私は、海を引き裂く船の呼吸に耳を傾けた。

 いつからだろう、カーテンの折り目を数え始めたのは。
空に挟まる畑を乗せた電灯は歌に鳴り、心臓は淡々と深々と揺れる。

 解体された地底の軌道に乗れば、モノクロの物置は名前も思い出せない。
幸運とはすれ違うだけなのだよ、と歳月は虚偽の掲示だらけのなかで力強く主張した。

(゚、゚トソン「シュー、分かりました。出口なんてありません!」

(゚、゚トソン「なぜならここは……」

 何かを言いかけたトソンの声が背後から聞こえた。
熱帯魚のエサの缶を手すりに置いて、私は後ろを振り返る。

lw´‐ _‐ノv「どうし……、あれっ」

121 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/01/03(木) 20:15:34 ID:OSOvWE.o0

 いるはずの姿がそこにない。確かに声はすぐ後ろで聞こえたのに。
焦点の合わない船の上の景色、マストや木箱だとかがぼんやりと目に映る。

lw;´‐ _‐ノv「えっ?」

lw´‐ _‐ノv「……」

 はみ出すワニを迎え撃つ空砲を、見たことがあっただろうか。
何から溢れているのかさえ分からないのだ、きっと見たことはないのだろう。

 きらきらした視界の生地が残されている分、最悪の状況ではない。
分からないということは終わりではなく、私にはまだ何かを選択できるということだ。

 妖精の距離は開かれ、きっと今新しい秩序に達する。

lw´‐ _‐ノv「トソ、でぃちゃん……」

 気付けば私は、船の上で一人だった。


第四話おわり

づく続くつ

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